1、はじめに
6月定例県議会は6月24日開会、7月9日閉会の会期16日間で開催されました。今議会は補正予算の提案はなく、条例などの知事提出議案、県議会開設130年の節目として議員提出の議会基本条例案などが審議されました。
中国四川大地震(5月12日)、岩手・宮城内陸地震(6月14日)と連続して大地震が発生し、甚大な被害をもたらしました。特に四川大地震では、学校校舎の倒壊による被害が多数出たことから、県内の学校耐震化が喫緊の課題となっていること。また、岩手・宮城内陸地震では、これまで地震発生確率が0%とされていた地域で発生したことから、県民の安全・安心を確保する上で、断層調査と原発の耐震基準の見直しが早急に求められていることが浮き彫りとなりました。
国際的な投機資金が野放しにされ、原油、穀物価格の異常な高騰を招き、物価の全般的な値上がりで県民生活と地域経済の疲弊に拍車がかかっています。また、非正規労働者が増え県内でも勤労者所得も大幅に低下していることが明らかになりました。
6月3日、6月定例県議会においては、広がる貧困と格差の解消に力を尽くし、(1)大型プロジェクト見直しのいっそうの徹底、(2)地域での仕事確保をはかり、地域経済の活性化に資するようにすること、(3)県民の暮らしを守り、市町村の個性ある地域づくりに取り組めるよう市町村支援を強めることを知事へ要望しました。
原発立地4町から県議会に対し、原発維持基準導入問題の議論を再開するよう要請があり、これを受けて、エネルギー政策議員協議会が6月20日に開催され、原子力安全・保安院と東京電力から説明を受け質疑を交わしました。この動きの中で、自民党は維持基準の導入をめざす姿勢を鮮明にしました。
6月21日に閉会した169通常国会では、中国四川省大地震を受けて、与野党共同提案の「公立幼稚園・小中学校の耐震化を促進する法案」が全会一致で可決・成立し19日から施行となり、小中学校の耐震化国庫補助が3分の2まで引き上げられました。一方、4月から施行された後期高齢者医療制度に対する国民の怒りが大きく広がり、全国614の地方議会が「制度の見直し」「中止」を求め、500万筆以上の中止・凍結を求める署名が集約されました。4野党共同で提案した廃止法案は、参議院で可決され衆議院に送られましたが、国会会期末、民主党が参議院に提出した問責決議案が可決されたことを受けて、社民党や国民新党とともに一切の審議拒否の対応をしたため、衆議院では審議に入れないまま継続審議となりました。
地球温暖化対策、食料問題などを主テーマとした主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)が、7月7日〜9日洞爺湖で開かれましたが、議長国として日本政府は自国の中期目標さえ示さず、サミットが危機感もなく具体的な解決策も見出せないまま閉幕したと内外の失望を受けています。
県は、党県議団が中止を求めていた今出ダム建設の中止を決定。また、議会最終日、福島空港に就航しているJAL(日本航空)が来年2月に事実上の撤退方針が示されました。
6月県議会最終日は、今議会に提出された追加議案2件を含めた18議案のうち、「県の行う建設事業等に対する市町村の負担について」など6議案に反対したほか、人事案件1件(公安委員)も再任のため反対しました。議員提出議案の「福島県議会基本条例」は、全会一致で可決。意見書7件に賛成し、全会一致で採択されました。わが党が紹介議員の請願3件は、いずれも継続扱いとなりました。
2、論戦について
◆一般質問(神山悦子議員)
7月2日、一般質問にたった神山悦子議員は、県民生活が厳しさを増している中で教育、医療、雇用、環境、減反・食料、原発維持基準導入などについて県の姿勢をただしました。神山議員は、「青年の雇用環境を守ることは、県と日本の将来にかかわる大問題、県政にとって喫緊の課題であり真剣に検討すべき」と知事に問い、知事は、「中長期的には産業活力の低下、社会保障制度への影響、税収の減や少子化の進行などが懸念される。県として県内企業への非正規雇用の正規化の要請などすすめ、青年の雇用の安定に積極的に取り組んでいく」との認識を示しました。
一方、県職員においても「県の臨時職員は年収150万円程度であり、官製ワーキングプアでないか」と指摘し、公契約条例の導入を図るべきと主張しました。地方公営企業法全部適用となった県立病院では臨時職員が17.3%と知事部局の5.5%の3倍以上に増加していること。教員では市町村立学校、県立学校とも常勤・非常勤講師が全教員の10%強、特に県立学校の非常勤講師は6.1%を占めていることが答弁で明らかになりました。
教育予算に関して、本県の学校耐震化の現状が、小中学校は55.3%で全国29位、高校は54.9%で全国32位と他県より遅れていることから、予算の大幅な増額を求めました。また、今年度県立学校への維持管理経費予算を大幅に削減、中でも備品購入費は昨年比30%台にまで削減したため、学校現場ではPTAに肩代わりさせようとして保護者から批判の声があがっていることを指摘し、維持管理経費の削減分を元に戻すべきと教育長に迫りました。教育長は、「きわめて厳しい財政状況のなかで確保した予算を、優先順位を十分勘案した結果、削減率にいろいろと差が出たなかで、ご指摘のような状況も生まれてきている」と問題があることを認めました。
地球温暖化対策については、EUのドイツや東京都の「環境確保条例」のように産業界との排出ガス削減協定を結んで達成をめざすよう県の姿勢をただしましたが、県の8%削減目標はもっぱら県民と県内の小規模事業所で取り組むという域を出ず、「福田ビジョン」を評価し、県内で最大の排出源である石炭火発についても電力会社の自主行動計画まかせの姿勢が鮮明となりました。原発を温暖化対策の切り札としている論調に対しては、地球環境の保全と安全面からも技術的には未確立で、事故を繰り返す点でも不安定な電力であることを強調し、自然エネルギーの買い取りや導入支援策について県の対応を求めました。
◆他会派の論戦の特徴
自民党、県民連合の代表質問では、原油高騰に伴う中小企業、農業者への支援策、飼料用稲への助成拡大、原発の維持基準導入の質問がありました。一方、自民党、県民連合ともに、4月から施行した後期高齢者医療制度についてはふれず、温暖化対策は森林整備と環境教育などで質問し、産業界への規制にはふれません。
また、一般質問では、自民党議員が道州制について知事の認識を問い、知事は「説明や合意のないままに枠組み先行の議論がなされており、前提となる地方分権の確立が保障されておらず、慎重に対応すべきもの」との認識を示しました。県民連合の議員が地球温暖化問題にかかわって、「福田ビジョン」への評価をただしたのに対し、県は「時宜を得たもの」との認識を示しました。
3、各委員会審議について
◆総務常任委員会(神山悦子議員)
(1) |
07年度一般会計の決算見込みについては、歳入歳出差引額が38億円2,700万円、翌年度の繰り越すべき財源15億5,700万円を差し引いた実質収支は、22億円7,000万円となる見通しと報告されました。 |
(2) |
提案された議案は5件で、第2号の「県税条例の一部を改正する条例」と第3号「県税特
別措置条例の一部を改正する条例」の2件は、地方税法の改正などに伴う条例の改正ですが、金融資産を持つ富裕層に対する優遇を広げることや、都道府県の税収格差是正として地方税を国税に変えて再配分することは、地方への税源委譲の流れに反することから反対。
また、第9号の「監査委員に関する条例の一部改正」も、地方財政健全化法(07年5月国会で可決)に伴い、監査委員の意見に健全化判断比率を義務づけようとするもので、これも地方分権とは逆行するものとの理由で反対。
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(3) |
追加議案の議員提出条例の「県議会基本条例」と、議員の報酬の位置づけを明確にし「議員報酬」とする2つの条例改正には賛成。 |
(4) |
私学に対する助成の拡充を求める継続請願5件は、いずれも継続とされました。 |
◆商労文教常任委員会(藤川しゅく子議員)
(1) |
企業局審査では、分譲工業団地販売は、販売委託手数料を設けて販売促進策としていますが、実績は工業団地1件(19年度)、住宅団地2件(17・18年度)のみであり、19年度の決算見込みで10億円の損金が出ています。過去のムダな開発に対する反省が求められます。 |
(2) |
商工労働部審査では、県内に派遣労働者が増加していることが議論になり、田村工業団地に誘致予定のデンソーに、県内労働者の正規雇用を強力に求めることを当局は表明しました。
また、指定管理者の見直しにあたり、ハイテクプラザなど5館を公募することとしました。
産業応援ファンドは、県民の財産10億円を投入し(総額50億円)、これを国債や地方債で運用し、益金見込7500万円を中小企業に支援します。
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(3) |
教育委員会審査では、県立高校隣接学区20%枠拡大について、パブリックコメントでは反対の意見が多いことから、県民の意見を反映するべきとの意見が自民党からでました。
県立大沼高校のプール飛び込み死亡事故について事故原因の検証と再発防止策について、施設整備の不備など改善策を求め、社民党も同様の意見を述べました。原油高騰や穀物高騰による給食費負担増の実態調査と県の対策を求めました。
県自然の家は指定管理者を募集しないこととし、存廃も含め検討する方向が示されたので、教育施設であることから直営で存続することを求めました。
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◆土木常任委員会(宮川えみ子議員)
県営住宅の家賃未払いで、県が強制退去の裁判を起こす議案が3件提案され、中学2年の子どものいる母子家庭と68歳の老人家庭については反対。3年くらい行方不明になっている人については、調査の確認をして賛成した。特に、生活保護受給者は住宅扶助が出ているので、市営住宅のように保護費から直接支払が可能になるような対応を求めました。建設事業に対する市町村負担については反対。
岩手・宮城内陸地震の国交省からの応援の要請については、6人の職員を派遣し、命令系統が大事なことを学んだこと、原油高による鋼材・燃料費について請負代金を増額した。今出ダムの建設を中止したなどの報告がありました。
現地視察は、いわき市小名浜港のガントリークレーン、7号埠頭の荷役状況、東港等を視察。ガントリークレーンは、2月の突風でストッパーに激突し足の部分が壊れ現在修理中で、8月頃まで修理がかかるとのこと。今は代わりに多目的クレーンを使っているが、能率が悪く作業時間延長でしのいでいるとのこと。
◆いのち・人権問題対策特別委員会(藤川しゅく子議員)
医師および医療従事者確保策と地域医療対策について議論。県内の医師不足が深刻な状況となっている原因についての所見を求めたところ、臨床制度の変更や診療報酬の改定などによるとする当局の認識が示された。政府の閣議決定による行革の中で、「医師が過剰である」からと、医療費削減策に抜本原因があることを指摘しました。
医師の県内定着策として、県立病院や公立病院のみならず、民間病院での研修生に対する修学資金免除策の必要性を提案。青森県の施策を紹介しました。
◆地域産業活性化対策特別委員会(宮川えみ子議員)
テーマは地域間の多様な交流の促進についてでした。スポーツ・過疎対策・農業・林業・他県との交流・歴史芸能・原子力立地地域対策・景観・教育・近隣諸国観光・都市間交流・空港利用などの分野にわたっています。県産材利用の木造住宅の補助実績が2戸で進まないことでの対応策や、民俗芸能の保存対策が十分でない問題。子どもたちの教育旅行、5年後学習指導要領で5年生全員の農家1泊の宿泊が行われることなどが論議されました。
4、議会改革について
◆議員提出条例案検討会(宮川えみ子議員)
福島県議会を開設して130年にあたる今年、議会のあり方について議員提出条例案・議会基本条例が検討され、議長に条例案が提出されました。7月3日、130年前に全国に先駆けて初県会が開催された福島市西蓮寺で総務委員会審議が行われたのち、7月9日の最終本会で全会一致採択されました。
5、原発の維持基準導入をめぐって
◆エネルギー政策議員協議会(宮川えみ子議員)
6月20日、6月定例県議会を前に、原子力安全・保安院及び東京電力を招いて、福島県議会の「エネルギー政策議員協議会」が開かれました。配管などにヒビが入っても運転が継続してできるようにする「維持基準」の導入と耐震対策について審議しました。原子力安全・保安院の加藤重治審議官、東電の武黒一郎副社長から説明がありました。
2002年(H14)に発覚した東電のデーター改ざん事故隠しを受けて、県議会が再発防止など10項目の要望を国に行ったことが基本であり、県民の不安と信頼は払拭されていない事を指摘しながら、説明に対する質問・批判などをしました。
特に、福島県は日本で一番古い原発を有していること、当初30年で廃炉と言っていたのを、50〜60年も持たせようとしていること、県議会や国民が求めている独立した検査機関を国は設置しようとしないことなど、維持基準を実施するような状況にはないということを前提に論議しました。各会派からは質問も少なく、自民党からは何も出ませんでした。もっと議論を深めるべき、会派でそれぞれ広く県民の意見を聞くべきことを求めました。
6、選挙区区域等検討委員会(神山悦子議員)
選挙区区域等検討委員会は、今年2月県議会で設置され、2011年の次期県議選に向けて選挙区の見直しの検討が始まりました。6月27日は、「強制合区」に該当する安達郡、相馬郡の合区先について協議し、大玉村は本宮市へ、新地町は相馬市へ、飯舘村は南相馬市へ合区することを確認しました。今後は、「任意合区」と「飛び地」について各会派で検討をすすめ、9月定例議会中の次回委員会で会派の方針を示すことになりました。
7、議会広報番組・届け県民の声(藤川しゅく子議員)
議会広報番組は、環境問題をテーマに、自民党2議員と県民連合1議員とともに出席し討論(FCT・6月28日放映)。家庭用太陽光発電に対する補助や、電気買取制度の推進、地域資源循環策への県の補助などを提案しました。CO2大口排出事業所に対する東京都のような規制の必要性について発言しました。
8、今出ダムの建設中止について
7月3日、県土木部は、石川町に建設を予定していた今出ダムの建設を中止し、千五沢ダムに洪水調整施設(約50億円)と下流の狭さく部の河川改修で対応するとの方針を明らかにしました。これによって、約400億円の税金投入は避けられることになりました。
「今出川総合開発」は、1996(H8)年に、県が農業用水の見込みが減少した千五沢ダムを農水省から買い取り、利水と治水を兼ね備えた多目的ダムとして今出ダムを建設し、2ダム1事業として着手したものでした。2011年度の完成をめざし、これまで約53億円余支出されています。
ところが昨年、須賀川市など県中水道用水企業団が利水参画中止を決定し、県に申し入れました。こうした事態を受けて、県土木部は治水対策の手法を検討してきました。その結果、既存の千五沢ダムに治水容量をもたせる設備(約50億円)と、一部狭さく部分の河川改修での対応が「最も効果的で経済的」であるとし、今出ダムの建設中止を決定したものです。
党県議団は、一貫して「ムダなダム」建設を批判し、治水対策はダムでなく河川改修など対応すべきと今出ダムの中止を求め県を質してきました。上水道事業についても、過大な水需要の見積もりが市町村の財政負担と住民への水道料金値上げを招くことから、企業団方式をやめて県管理とするよう求めてきました。党須賀川市議団もこれらの問題点を指摘し、市当局が撤退方針を打ち出す大きな役割を果たしました。今出ダム建設中止は、一連の県政・市政との連携した追及が実を結んだものです。
9、請願・意見書について
●採択された意見書(全会一致)
◇携帯電話リサイクルの推進を求める意見書
◇日本映画への字幕付与を求める意見書
◇子宮頸がん予防ワクチンに関する意見書
◇地球温暖化防止に向けた国民的運動の推進を求める意見書
◇原油・原料材料の高騰に関する意見書
◇地域医療体制の確保を求める意見書
◇国による公的森林整備の推進と国有林や事業の健全化を求める意見書
●党が紹介議員になった請願・意見書の扱いについて
党県議団が紹介議員となった新規請願「保健でよりよい歯科医療の実現を求める意見書の提出を求める請願」(保険医協会提出)、「母子世帯の児童扶養手当の改定による諸手続の簡素化を求める意見書の提出を求める請願」(新日本婦人の会提出)、「ミニマム・アクセス米の輸入中止を求める意見書の提出を求める請願」(県農民連提出)、「(株)クリーンテックの産廃処分場第二期工事の不許可を求める決議に関する請願書」(反対同盟提出)の4件を提出しましたが、いずれも継続扱いとなりましたが、県民連合は、採択・趣旨採択とする努力がありました。
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