はじめに
東日本大震災・原発事故からまもなく9ヶ月になろうとしています。いまだ原発事故は収束にいたらず、15万人以上の県民がふるさとを離れ避難生活を余儀なくされ、1万9千人余の子どもたちが放射能汚染からのがれるために県外に避難する事態となっています。
かつてない苦難の中で、「いそげ除染、しっかり賠償、原発ゼロ」は、すべての県民の願いをあらわすものとなっており、「住み続けることのできる福島」は緊急の課題になっています。
10月24日、県原子力損害対策協議会(会長・佐藤雄平県知事)は、東京電力にたいして、すべての県民への精神的損害を含めた全面賠償を求め「公開質問書」を提出しました。9月定例県議会では、日本共産党県議だけの紹介で6月定例県議会に提出した「原発廃炉」請願(新婦人県本部提出)が全会一致で採択されました。
10月30日に開催された「なくせ原発 安心して住み続けられる福島を!10・30大集会」は、会場にあふれる1万人以上が集い、「徹底した除染で放射能から子どもを守れ」「精神的損害も含め、すべての損害を賠償せよ」「原発はゼロに」とアピールしたことは、「オール福島」の願いを形にし、全国に発信するものになりました。
11月22日、東日本大震災の復興、原発災害の除染費用などを盛り込んだ国の第3次補正予算が成立しました。
除染費用は飯舘村だけでも3224億円と試算されているのに、3次補正が計上した予算はわずか2400億円です。除染費用は来年度予算案を含めても1.2兆円にすぎません。やる気を疑わせる予算です。
民主党政権が月内の成立をめざす3次補正の財源確保法案は、25年間で8.8兆円の庶民増税を盛り込み、法人税にも減税を前提とした枠内で3年間の「付加税」を課すとしています。「庶民に増税、大企業に減税」では、復興財源は1円も生まれません。
原発事故の賠償と除染の費用は第一義的には原発事故を引き起こした東京電力が負担すべきです。電力業界、原子炉メーカー、大手ゼネコン、鉄鋼・セメントメーカー、大銀行など原発で大もうけしてきた「原発利益共同体」にも負担を求めるべきです。
除染と全面賠償の費用は膨大です。日本共産党は、東電をはじめ電力業界が核燃料サイクル計画のために積み立てている「再処理等積立金」など巨額の「原発埋蔵金」の活用を提案しています。この「原発埋蔵金」を、新たに設ける「基金」に移し、「原発利益共同体」にも「基金」への拠出を求めて除染と賠償の費用に活用するという提案です。
また、野田内閣が強引にすすめているTPP交渉参加は、東日本大震災と原発事故からの復旧・復興の妨げとなることは明白であり、県内各層・各分野から反対の声が上がり、9月定例県議会で反対決議が採択されたことは「オール福島」の声をあらわしたものです。
11月20日投開票で行われた県議会議員選挙は、原発事故を体験した県民が政治や社会のあり方について、模索と探求をより深める中での選挙戦となりました。
安心して住み続けられる福島県をとりもどすには、今後、長期にわたるとりくみが求められます。日本共産党県議団は、選挙戦でかかげた公約の実現に全力をあげ、以下の項目について要望します。
1、2012年度の県予算編成は、大型開発事業を中止し、県民のくらしと市町村を応援することを基本に
東日本大震災と原発事故によって県内の経済・雇用情勢は、かつてない厳しい中にあり、大型開発事業をキッパリと中止し、復旧・復興の土台に個人の生活基盤の再生において、県民生活と市町村を応援する予算編成を基本とするよう求めます。
- 小名浜東港(人工島)建設は、費用対効果からみても、今後の港湾利用からみても過大な投資となることは必至であり、事業中止を決断すること。
- 福島空港は、閉鎖を視野に検討すること。
- 大規模林道建設を中止し、森林の手入れや伐採などの作業道を整備すること。
- 県の建設事業への市町村負担を全廃すること。
2、徹底した除染対策を線引きせずに国・東京電力の責任ですすめる
放射能汚染から県民を守る施策を一刻も早く前進させることは、避難した多くの子どもや若い人を福島県に戻し、真の復興を実現させるための要です。そのためには、国がすべての責任を負い費用も負担し、県と住民が協力し合って進めることが重要です。
- きめ細かなモニタリングを行い全県の除染計画を作り実施すること。その際数値にかかわらず、学校(高校も含む)・保育所・幼稚園・学童保育・通学路・公園など子どもたちのまわりでの除染を早急に行うこと。除染は、地域任せにせず県や市町村が前面に立ち費用負担は全て国に求めること。
- 除染で生じる放射性廃棄物(汚泥・がれき・土壌・農水産物など)の中間貯蔵施設については、国の責任で指針を早急に示すとともに、かかる費用負担についても国が全面的に保障することを強く求めること。最終処分場については国の責任で明確に示すことを強く求めること。
- 除染については県・国が一体で市町村を指導・援助し、早期に効果的な除染が実施できるようにすること。
- きめ細かな長期的健康管理体制を確立すること。特に子どもたちの健康管理には特段の対策を行うこと。
- 食の安全と生産者を守るために検査体制を早急に整えること。そのために国に放射能検査機器の緊急輸入、民間や研究機関の検査機器の借り上げなど当面の体制強化を求め、抜本的検査体制を整える計画を示し実現すること。特に学校、保育所、幼稚園等の子どもたちへの給食の検査体制は早急に実施すること。
- 土壌改良の対策と研究、森林対策の研究と促進、採れた魚類を即検査できる体制の強化、また、世界の英知を結集した放射能研究機関の誘致を強力に働きかけること。
- 学校、保育所、幼稚園等の子どもが生活する施設についてはこれまで園庭、校庭のみの除染が行われてきたが、屋根やコンクリートの敷地は実施されておらず、設置者が独自に実施するところも出ている。県として、あらためて市町村に指示し除染を行うこととし、その費用は全額国に求めること。
3、原発からの距離や放射線量で線引きせずに全面的な損害賠償の実現を
損害賠償の「中間指針」が示され、東京電力の賠償基準が明らかになりましたが、原発事故がなかったら、あったであろう収入との差を全て賠償するという全面賠償の基本からは程遠いもので、被害者である県民に立証責任を負わせる理不尽なものです。
精神的損害が入っていないことや手続きが煩雑なこと、出荷制限や風評被害の算定に実態が反映されていないこと、原発事故による廃業や失業という間接被害対応も不充分です。引き続き国と東京電力に対し全面賠償を強く求めること。
- 年末をひかえて仮払すら受けていない被災者もおり、概算払いも含めた賠償金の支払いを東電と国に求めること。
- 東京電力の賠償基準に対して、住民間の分断をまねかないよう、自主避難者をはじめとする区域外住民に対するあらゆる損害の賠償を求めること。
- 現行法を超える未曽有の原子力災害賠償に対応する特別法の制定を、引き続き国に強く求めること。同時に全面賠償を求める立場から、特別法について積極的かつ具体的な内容を検討して国に要望すること。
- 原子力損害賠償担当課のスタッフを拡充し、県民の賠償請求にきめ細やかなサポート体制をとること。
4、原発に依存しない県づくりの推進
県の「復興ビジョン」は原発に依存しない持続可能な社会づくりを基本理念としました。「復興計画」は一人一人の県民の暮らしの復興を基本に、地域の再生をめざし、市町村の意見を充分反映したものとすることが重要です。
- 福島第一原発と第二原発の全10基の廃炉を明確にすること。
- 国の責任において一刻も早い原発事故収束を引き続き強く求めること。
- 県の原発行政の到達点である県エネルギー政策検討会の「中間とりまとめ」(2002年)の立場に立ち、核燃料サイクルからの撤退を国に求めること。
- 県総合計画に「脱原発」理念を盛り込み、再生可能自然エネルギーの開発促進、低エネルギー社会への移行をすすめ、小水力や循環型エネルギーに取り組み、地元中小企業との連携で雇用の充実につなげること。
- 放射線の健康への影響や、農林水産物への影響についての研究をすすめること。将来的な県民の健康および放射能の影響が少ない農水産物の研究と生産を新産業に発展させる展望を持つこと。
- 原発に依存しない県づくりを展望する上で、原子力災害による被災地域の再生に関する財源を保障した特別法の制定を国に求めること。
5、被災者の生活再建こそ復興の基本に、産業基盤の回復、雇用の創出を
一人ひとりの被災者が復興への希望が持てるような支援策、地元中小商工業の産業基盤の回復、雇用の創出をはかることを求めます。
- 仮設・避難者住宅等入居者への被災者支援を継続すること。
・仮設住宅の生活環境改善を図り、玄関等にひさしの取り付け、各戸に物置の設置、追い焚きの風呂釜などの要望に応えること。また、住民の安全対策を重視し、消化器と消火栓の設置、ガス釜の防火対策を早急に行うとともに、各戸にブザーを取り付けるなど、一人暮らしの高齢者、障がい者世帯の非常通報体制を整備すること。
・未舗装の駐車場のためホコリで洗濯物を干せない状態になっており、舗装をすること。
・情報・通信手段の整備をすすめ、共同のBSアンテナを設置し、視聴できる環境を整えること。また、各集会所に誰でも使用できるパソコンとコピー機を設置すること。
- 原発立地地域での早期帰還困難者、津波や地震で家を失った方々など長期的住宅確保が必要であり、公営住宅の建設計画を作り実施すること。
- 集落全体が壊滅状態となった地域の新たなまちづくりへ向け、コミュニティを基礎とした条件整備、財政支援に行政として責任を持つこと。
- 中小企業や個人の二重ローン対策が具体的に進むよう支援をすること。
- 再生可能な自然エネルギーの飛躍的導入と産業化を積極的に進め、地元中小企業との連携で雇用の創出をはかること。
- 原発・地震津波対策では、教育施設整備は一般的なルールにとらわれずに早急に整備すること。地震対応については、周知徹底されていないために罹災届の提出が遅れており、受付期間の延長を十分に行うこと。
- 生活再建の土台となる住宅修繕の支援が必要である。一部損壊住宅への支援と宅地損壊への支援をはかること。公的支援策が講じられるよう災害救助法の拡充を国に求めると同時に、社会資本整備総合交付金事業など、国の交付金を活用して県が積極的な被災者支援を行うこと。
- 台風15号による被害にかかる住宅応急修理の受付期限を延長し、対象要件の緩和によって、より多くの被災者が対象となるように措置すること。
- 原発避難者がいわき市に居住する傾向が強まっており、県としても十分な対応をとること。
- 基準値をこえた福島市旧小国村の米は国に全量買い上げを求めること。
- 漁業グループが行うがれき、漂流物回収を来年度も継続して行うこと。
- 避難地域の無人化によるイノシシ対策を強化すること。
6、県民の健康と生命を守る長期的で全面的な医療・福祉体制の確立と子育て支援を
医師や医療技術者の県外流失という事態が続いている相双地方の地域医療体制の確立、および困難が続いているいわき地域の医療体制確立は、国・県の責任で万全を期すことが必要です。県民の安全・安心を確保し、住み続けられるようにするためのあらゆる手立てが切実に求められています。
「福島の未来は子どもたちにかかっています。この子たちの未来は、私たちにかかっています」(10・30大集会での若いお母さんの訴えより)の言葉に示されるように、子どもたちが安心して生活できる福島県をつくることは県政の最大の課題です。
- 医療・福祉の充実・拡充を
・子どもの健康を守るために18歳までの医療費を無料化すること。
・全県民に「県民健康管理手帳」を配布し、内部被曝の検査を含め健康診断とがん検診を無料にすること。
・義援金や仮払補償金を収入と認定して生活保護の一方的打ち切りをしないよう市町村への厚生労働省の方針を徹底すること。
・国保税引き下げ――市町村国保へ独自に助成し、市町村の国保の窓口一部負担金の減免に対する県の助成を実現すること。
・せめて75歳以上の医療費の窓口負担を無料にし、65歳以上の負担は軽減をすること。
・特別養護老人ホーム待機者なくす――1万人以上の待機者がいる特養ホームや老健施設など必要な介護基盤整備を行なうこと。
・母乳の放射能検査を県内で無料で行えるようにすること。
- 子育て・教育条件の拡充を
・県立高校のサテライト校の統廃合は、子どもたちや保護者、学校現場の意見を十分に聞いた上で、適切なあり方を検討すること。
・公立、私立の高校生の授業料減免を引き続き行うこと。
・子どもたちは未曾有の甚大な自然災害に加えて、放射能汚染による深刻な精神的ストレスを受けている。スクールカウンセラーの配置は当然のこと、一番子どもたちに寄り添い心のケアを行ってきたのは現場の教師であることを踏まえ、新規採用を実施し、教職員の十分な配置を行うこと。
・少人数学級の充実を――30人学級を継続し、講師を減らし、正教員を増やすとともに、1学級あたりの教員配置を複数にするなど、手厚い教員配置とするよう国に求めること。また、小中学校に専任司書の配置をすすめること。
・保育所の待機児童なくす支援を――県として待機児童をなくすために保育所の増設への支援をすること。
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