はじめに
東日本大震災・原発事故から10ヶ月以上が経過し、昨年末には、県の「復興計画」が策定され、それに基づいて2012年度は「復興元年」と位置づけられています。しかし、政府の原発事故「収束」宣言にもかかわらず、放射能被害はひろがり続け、避難者は16万人にもせまり、県外避難者も増加し続け、61,659人にもなるなど、「収束」とは真逆の深刻な状況にあります。
1月13日、政権発足から4カ月余りを経た野田佳彦首相が、内閣の一部改造と民主党の役員人事を行い、「一体改革」での民自公協議を狙った布陣をとりました。
野田政権の発足から4カ月余り、どの新聞、放送局の調査でも野田政権の内閣支持率は急速に低下し、2年半で3人目の首相を誕生させても、民主党政権の行き詰まりはいっこうに打開できていません。とりわけ、「一体改革」で2015年までに10%まで税率を引き上げるとした消費税増税に対しては、反対の世論が広がっています。
野田政権が社会保障改悪との「一体改革」で強行を狙う消費税増税は、八ッ場ダムの復活、原発推進予算、1機100億円もの次期主力戦闘機の決定などムダ遣いを改めるどころか拡大し、社会保障は軒並み後退、景気をいっそう悪化させるなど、矛盾だらけです。
消費税増税と社会保障改悪との「一体改革」とTPP交渉参加を強引に推し進めることは、東日本大震災・原発事故の深刻な被災県である福島県にとって、復興への重大な障害となることは明らかです。
さらに、衆院比例定数の80削減は、東北ブロックでは定数が半分の7となり、被災地の声を届きにくくするものです。
2012年度の県予算編成にあたっては、「復興計画」に基づき、個人の生活と生業の再建を土台とし、同時に、地方自治体の本来の役割である「住民の安全と福祉の向上」を基本にして医療・福祉・教育の充実をはかること。ムダと浪費、不要不急の大型開発を抜本的に見直し、広域自治体として「イコールパートナー」の市町村を励まし支援することが強く求められます。
県政には、以上の観点に立って、次の具体的施策の実施を要望します。
1 2012年度予算編成の基本について
昨年3月11日の大震災・原発事故発生後の県民と市町村の現状からみて、新年度も引き続き被災県民と市町村を支援していくことが求められます。
そのためには、ムダを省き、「復興計画」にあるように1人1人の県民の生活再建を基本に、緊急対応も含めて具体化をしっかりと進める予算とすべきです。
- 原発災害に関わっては、財政的にも制度的にも恒久的支援を行なう「特別法」となるよう国に求めること。
- 復興財源については、国のしばりをかけるような補助金ではなく、地方の自由裁量を認める交付金扱いとするよう国に求めること。
- 本県の復興と県民の生活再建の足かせになる「TPP交渉参加」と「社会保障と税の一体改悪」には反対を明確にすること。
- 不要不急の大型公共事業の小名浜港「東港地区」建設と大規模林道の「山のみち地域づくり交付金事業」については、中止すること。
- 住み続けられる福島を取り戻すために、徹底した除染対策、食品検査と健康支援体制を充実させるための予算を確保すること。
- 企業誘致の補助金上限の上積みをやめ、呼び込み方式での産業支援策を見直し、地場産業の育成による地域循環型の産業政策をめざすこと。
- 再生可能エネルギーの飛躍的な導入、推進に思い切った予算措置を行うこと。
- 県民の健康を守るため、地域医療に県の責任を果たし、医師不足の解消に思い切った予算措置を図ること。
- 県立病院の統廃合をやめ、拡充を図るなど県立病院のあり方を根本から見直すこと。
- 障がい者福祉、高齢者福祉の拡充を図ること。
- 「地方分権一括法」制定に伴う県条例の改正が行われるが、権限の委譲だけでなく財源の委譲も伴うよう国に求めるとともに、市町村への委譲を行うことで県民の権利や福祉を後退させることがないようにすること。
2 原発ゼロをめざす取り組みについて
事故原発の内部がどうなっているかは、いまだに誰もわからないのが実態です。放射能汚染水漏れもたびたび起き、1月17日には、プール冷却が一時停止するなど、トラブル続きです。こうしたもとで事故収束宣言することは、東京電力と国の責任を小さくし、賠償の範囲をせばめ、除染の責任をあいまいにし、国内原発の再稼働や原発寿命「60年」までの延長、原発輸出の動きを後押しするだけです。いま県には、「原発なくせ」の県民の願い、「原発のない日本にしてほしい」の国民の願いを実現する役割が求められています。
- 県内すべての原発を廃炉にすることを東電・国に引き続き強く求めること。
- 福島第一原発1〜4号機の事故原発の状況、並びに5、6号機、第二原発の実態を東電・国が毎日報告するよう求めること。
- 県としても県内すべての原発の状況を把握し、県民に知らせること。
- 放射能汚染水漏れなどたびたび起きているトラブルについては、抜本的な対策を講じるよう東電と国に求めること。
3 除染の徹底を図り住みつづけられる福島を取り戻す
避難している県民が故郷に戻ってこれる福島、安心して住み続けられる福島県土を取り戻すためには、徹底した除染をスピーディに実施する事が求められています。
- 国が行っている除染のモデル事業の結果の情報公開を行うとともに、効果的、効率的な除染方法の確立に向けて、全ての英知を結集した検討機関を設置することを求めること。
また、国のモデル事業を実施している下請け業者が、トイレも設置せず作業に従事させている状況があると指摘されています。作業員の安全対策を含めた事業者への適切な指導を求めること。
- 除染に早期に取り組むため、あらゆる機関を活用した体制づくりを行う必要があります。そのための地元業者に対する研修、作業員確保のための研修を大規模に取り組み、求職者のための雇用拡大につなげることを求めること。
- 除染作業の前後の放射線量測定をキメ細かに実施し、効果を確認しながら実施すること。
- 放射線量を色で識別し可視化する機器が開発され有料貸し出しを行うと伝えられているが、県としては、無料の貸し出しを求めること。
- 放射性廃棄物の処理については、国が責任を負う原則に立って、30年間の中間貯蔵施設という曖昧な方法ではなく、最終処分の方針を明確に示すよう国に強く求めること。
- 浪江町の採石場から出荷された放射能に汚染された砕石が建築材料として使用され、放射能汚染が拡散し、県民に不安を与えている。使用箇所の特定と放射線量測定などの被害の全容解明と対策を早期に講じるとともに、県民への情報公開を行うこと。
4 全県民を対象とした賠償をめざして
- 県内23市町村の全県民を損害賠償の対象とした政府の原子力損害賠償紛争審査会の指針について、県民から「県民を分断する線引きであり、到底許されない」との声が上がっています。風評被害、精神的苦痛も含めて、損害を受けた県内全域、全県民を対象とすべきであり、線引きの撤回を求めること。
- 東京電力から受ける被害の賠償金について、国税庁は心身の被害又は資産の損害に対する賠償金は非課税とするものの、事業所得等になる賠償金は課税対象としています。口蹄疫の時の賠償金は非課税対応でした。国税庁に対して東京電力から受け取る賠償金は非課税所得とするよう要望すること。
- 東京電力の賠償支払い状況は個人分で受け付け約43,000件、支払約11,450件にみられるようにまだ緒についたばかりです(原子力賠償支援課1月16日現在)。多くの県民は困っていてもどこにどう賠償請求を行えばいいのかもわからないでいます。生活の展望を開いていくためにも、原発事故さえなかったら当然入るべき収入の全面賠償を行うことができるよう、県は市町村とも連携をとり、全県民を対象とした代行請求を行うこと。
5 被災者支援について
- 県内外の避難者の意向調査を行い対応を図ること。
- 避難区域の見直しについては、地元の意向を十分に反映させ、除染の徹底、インフラの整備を行うことを前提として進めること。
- 入居期間の弾力化を示し避難者に安心を与えること。
- 仮設住宅の引き続きの寒さ対策、街灯の設置など防犯・盗難対策を行うこと。孤独死など二次被害を防ぐため見回り対策など市町村と協力し対策を進めること。仮設住宅入居者と地域の交流促進など、意欲を持って生活できるよう支援策を強めること。
- 被災者公営住宅などの建設を早急に行うこと。
- 義援金などを収入と見なしての被災者の生活保護の打ち切りなど強硬な対応を行わないこと。
- 「一部損壊住宅支援事業」が、希望する全市町村で実施できるように県独自の財政的人的支援を行うこと。また、県独自の制度も考えること。
- 県外避難者に対して充分な支援を行うこと。
- 高速道路の無料化を4月以降も継続するよう国に求めること。
- 避難者が多い県に対し、往復バスの無料運行などの支援を行うこと。
- 避難者の住まいの確保という観点から、仮設住宅と県内・県外の民間借り上げ住宅については、期間延長と住み替えについて柔軟に対応すること。また、復興住宅扱いに振り替えることが可能となるよう国に求めること。
- 民間借り上げ住宅についても仮設と同様の支援が受けられるようにすること。
- 仮設住宅の結露対策を講じるとともに、風呂の追い炊きができない問題についても、浴槽に直接入れられるヒーターなど、何らかの対策を講じること。
- 県外に避難している子どもたちにも差別なく成長の場を保障する権利として、保育や幼稚園教育を受けることができるように対応を行うこと。
- 県外避難者は知らない地域、人々の中でひきこもりになったり、孤立しがちの状況にある。地元の市町村からのメッセージや制度のお知らせなど情報提供を行うこと。
- 孤立しがちな県外に避難をしている人々がつながり、支え合えるネットワークを作るための支援を行うこと。
6 くらし、福祉、医療、県民の健康を守り、長寿日本一をめざす具体化を
3・11の大震災と引き続く原発事故による被害の深刻化は、それまでの開発優先の政治と構造改革政治の結果です。
一人ひとりの県民のくらしを支え、命を守り、福祉、医療、介護などの充実に力をそそぎ、県民の健康を守る県の姿勢を明確にすることこそ、長寿日本一の県づくりの大前提です。
- まき散らされた放射性物質は、特に子どもたちに大きな影響を与えます。子どもたちの身体のどんな小さな変化にも対応し、いつでも安心して医療にかかれるように、18歳までの医療費を無料とすること。国が責任を果たすまでは、県が実施すること。
- ガラスバッジなどで高い被ばくが確認された子どもについて、原因究明とともに個別の健康管理を徹底すること。
- 将来にわたる県民の健康維持・増進のために、健康診査・がん検診を県民誰もが無料で受けられるようにすること。
- ホールボディカウンターによる内部被ばく検査体制を拡充し、早期に希望する県民が受けられるようにするとともに、4歳以下の乳幼児の内部被ばく検査方法の確立を国に要望すること。
- 震災後と今に至る要介護者、施設利用・入所待機者の実情を把握し、いつでもどこでも利用できる介護サービスの整備をすること。
- 市町村国保会計への県としての独自の助成を行い、国保税負担軽減をすること。
- 県として、子ども病院、がんセンターを設置すること。
- 原発事故による自主避難者が避難先で医療機関を受診する際は、地元自治体の無料制度があるものでも一旦は窓口負担する償還払いとなっています。避難指定区域の被災者と同様に窓口無料とするよう、国の基準、通達の見直しを求めること。
- 子どもの体力低下が指摘されていることから、体力調査を実施し、遊び場確保など対策を講じること。
- 保育所給食の食材の放射能検査を毎日実施するよう市町村を指導し、検査体制づくりを支援すること。
7 産業、雇用対策の強化について
地震、津波、原発事故による放射能汚染で県内産業は壊滅的な打撃を受けています。
- 復興に向けて中小商工業者の丁寧な意向調査を行い、要望にそった支援策を講じること。融資の円滑化、貸工場の提供などきめ細かな支援策を具体化すること。また、原発事故被災者を「二重ローン」解消の対象に組み入れて支援すること。
- 雇用保険の失業給付の特例措置に基づく支給期間の再延長を求めること。
- 除染が県内の一大産業となる下で、地元業者の育成を図り、地元業者の直接受注、地元雇用の拡大に資するよう市町村への指導の強化、国への要請を行うこと。
- 高卒者の就職内定率が12月末で84.2%、昨年同月比で6.7ポイント上昇したとはいえ、未内定者が884人にのぼっている。卒業時点でなお、未内定の高卒者の支援の強化をはかること。
- 農業再生のためには、農地の除染が前提となります。作付不能農地は除染し、作付可能となるまでは全面賠償で農家の生活を保障するよう国と東電に強く求めること。
- 農産物の生産、加工、流通において放射能検査と対策の体系だった取り組みができるようにすること。
- 米の全袋放射能検査体制を早急につくること。100ベクレルをこえる米が検出された地域の米は全量国が買い上げすることを求めること。
- 再生可能エネルギーの開発・普及に向けた研究を進めるとともに、補助事業の拡充、補助額の増額をはかること。
- 浮体式洋上風力発電施設の建設については、漁業者との丁寧な話し合いを行い、理解と納得の上で進めること。
8 被災生徒児童に寄り添いゆきとどいた教育を実現するために
震災・原発事故による長期支援が教育行政にも求められます。
- サテライト校の集約化については、子どもたちや保護者への負担を軽減すること。あわせて、充実した学習環境が図れるようにすること。
- 被災した学校施設の復旧と小中高校施設の耐震化を促進すること。
- 被災した子どもたちの学習環境を充実させるためにも正教員の定数を増やすこと。
- 子どもたちの心のケアを図るスクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーを増員し、身分保障のうえ各校に配置できるようにすること。
- 「全国一斉学力テスト」への参加を中止すること。
- 特別支援教育については、広域での通学区域となっている現状を見直し、特別支援学校を増やすこと。
- 学校維持管理予算については、灯油代やクーラー経費、図書費、備品などの必要経費がまかなえるよう増額し、保護者負担とならないようにすること。
- 全小中高にクーラーを設置すること。
- 県の奨学金制度を見直し、給付型奨学金制度を創設すること。
- 就学援助制度の周知と活用を図れるよう、教育現場と保護者に徹底を図ること。
- 県立高校の除染については、校庭の表土だけでなく校舎など学校全体の除染をすすめること。
- 放射能に関する学校の副読本については、福島原発の事故の教訓をふまえ、原発の「安全神話」を一掃し原発の危険性にもふれたものとすること。
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