はじめに
東日本大震災と原発事故からまもなく1年半になろうとしています。国による警戒区域の見直しが進められていますが、除染やインフラ整備が進んでおらず、帰還の見通しは立っていません。原発事故は、生活と生業の再建にも大きな障害となっています。
いまだに避難者は16万人余に上り、そのうち県外避難者は6万人を超えています。今年度の文部科学省の学校基本調査で、県内の小学校に通う児童の数は、前年度5月比で5000人余り減っていることが明らかになりました。児童数の減少は、原発事故に伴う県外への避難が少子化以上に大きく影響しています。
原発事故は放射能汚染という、自然災害にはない「異質の危険」をもたらすものであり、被害は今も拡大し続けています。
国会事故調査委員会の最終報告で原発事故を「明らかに人災」としたことは重要です。野田政権が、原因解明がされず当面の安全対策さえとらずに大飯原発3・4号機の再稼動を政治決断で決めたことは断じて容認できません。
野田政権が進める「エネルギー・環境戦略」の検討作業の中で「原発ゼロ」の決断を求める国民世論がいよいよ明白になり、決断を引き延ばす野田政権や、原発推進に固執する財界・電力業界など「原発利益共同体」との矛盾が浮き彫りになっています。
政権末期の様相を強めている野田政権は、国民の多数が反対し、被災地の復興に重くのしかかる公約違反の消費税増税を民自公の談合で強行成立させ、さらに定数削減、赤字公債発行法案を与党のみで衆議院で審議・採決するなど議会制民主主義を破壊する暴走を繰り返しています。8月29日、野党7党・会派が提案した問責決議案が可決されたことは、消費税増税に反対する国民多数の声に応えるものです。
また、領土問題が外交上の大きな問題になっていますが、尖閣諸島も竹島も歴史的にも国際法上も明らかに日本の領土です。
竹島については、日本が領有を主張することには歴史的根拠がありますが、竹島の日本編入は、日本が韓国を植民地化する過程で、韓国の外交権が奪われていたもとで行われ、竹島編入が侵略の象徴という韓国側の思いも受け止めるべきです。「従軍慰安婦」問題の解決を含め、日本がこれに応える冷静な議論をしなければ解決の道は開かれません。
領土問題については、歴史的事実と国際法上の道理にのっとり、冷静な外交交渉で解決を図ることが大事であり、感情的な対応で緊張をエスカレートさせるようなことは双方が自制すべきです。
7月13日、福島復興再生特措法に基づく「復興基本方針」が閣議決定されました。安心して住み続けられる福島県をとりもどすためには、原発事故が「人災」であることを明確にして、すべての責任を国と東電に求め、被災者である全県民に寄り添った施策の展開が強く求められます。9月定例県議会に関して、以下の項目について要望します。
一、総合計画の見直しは、県民のくらしと生業の復旧・復興支援を基本に
震災と原発事故で福島県民を取り巻く環境が根底から覆された現状から出発して、県民一人ひとりのくらしと生業を取り戻すことなしには、福島県の再生は実現できません。
この間の見直しで、原発に頼らない県土の再生をめざすことが総合計画に盛り込まれたことは、原発はゼロにという県民の願いを反映したものとして、全国を励ますものとなっています。
加えて、原発事故で放射能に汚染された県土から、県民が安心して住み続けられる福島県を取り戻すためには、長期にわたる復興支援が求められ、その裏付けとなる財源確保は不可欠の課題となります。
1、総合計画と個別計画の見直しに当たっては、大震災、原発事故から県民一人ひとりのくらしと生業の復旧・復興を基本に据えること。
二、「原発ゼロ」の福島を
原発事故発生後、原発事故の原因もサイト内の究明もほとんどなされないまま今日に至っています。
本県が受けた原発事故による悲惨な被害を二度と起こさないためにも、今回の事故に至った原因と教訓を引き出し、「原発ゼロ」をわが県から発信していくことが今こそ求められます。
1、知事は、原発の推進に関わってきたことを真摯に反省し、今回の原発事故を「人災」と認めること。
2、東電が一部公開した事故対応のテレビ会議映像について、全体の公開を東電に求めること。
3、昨年12月に出した国の「事故収束宣言」の撤回を強く求めること。
4、事故原発のトラブルが多発しています。原因の徹底した究明と再発防止、情報公開を国と東京電力に求めること。
5、福島県から「原発ゼロ」を発信し、国にエネルギー政策の転換を求めること。
6、第一原発1〜4号機の廃炉にとどまらず、本県の原発10基廃炉を国に明言させ、そのうえで今後廃炉に向けた工程を明らかにさせること。
7、原発事故の収束作業に従事する全ての労働者・作業員に対し、下請けを含め被曝低減対策と労働環境の改善を図るよう国と東電に求めること。
三、くらしと生業の再建を土台にした復興を
大震災・原発事故で被災した県民が本格的に復興に向かうためには、TPPや消費税増税も被災県民の足かせになるだけです。くらしと生業の再建を土台にした復興を求めます。
1、消費税増税の実施中止、TPP参加に反対を表明すること。
2、くらしの再建の土台となる被災者の「住まい」の確保を最優先に、災害復興住宅の建設、さまざまな形態の県営住宅を早期に提供できるよう、具体化を急ぐこと。
3、中小業者に対するグループ補助の継続を国に求めること。
4、緊急雇用対策事業の継続など、県民の雇用対策を強化すること。
5、公契約条例を制定し、時給1000円以上の最低賃金とし、下請けまで含めた良好な労働条件を確立するなど、官制ワーキングプアを生まないようにすること。
6、農業・林業・漁業従事者の生業を再建・維持できるよう、徹底した放射能除染対策、検査体制の充実、資金面での支援など、あらゆる手立てをとること。
7、本県の豊かな自然を活用した農林水産業、地産地消の自然エネルギーを中心とした地域循環型・内発型の産業をめざし、地域の取り組みを支援すること。
8、高齢者や子育て世代、障がい者にあたたかい県政づくりをすすめ、福祉型の産業興しで雇用にもつなげること。
四、被災者支援について
長期にわたる避難生活で体調を崩し亡くなった方、将来に失望し、自ら命を絶った方など震災関連死が950人を超えています。災害救助法に基づく被災者支援は市町村任せにせず、県が実施主体としてすべての被災者が漏れなく支援を受けられるように市町村を支援することが大事です。
1、県内に避難している自主避難者の状況把握を急ぎ、災害救助法の運用対象として支援すること。「賠償で対応」としている国の姿勢を正すよう引き続き求めること。
2、放射能による避難が続いている現状から、他県から他県への借り上げ住宅の移転を認め、支援を継続すること。新たな避難者の受け付けを終了している都道府県に再開を求めること。
3、福島県が支給する県南の一部と会津の県民に対する給付金については、住民票の有無にとらわれず、生活実態があればもれなく適正に支給すること。また、4項目の同意事項を支給条件としないこと。国・東電に代わり県が対応している趣旨を貫き、速やかな給付をすること。
4、災害救助法による住宅応急修理事業の受付を再開し、支援を受けられるようにすること。
5、閉じこもりやうつ的症状、健康を害する方に対応のための訪問活動や地域コミュニティづくりに取り組む支援体制を確立すること。
6、原発事故が起こらなければ発生しなかったであろう被害は完全賠償をするという立場に立って、再取得が可能となる賠償基準に抜本的に改めることを国と東電に求めること。その際、賠償の対象は、不動産登記をしていない事例が多い現状から、不動産登記簿をもとにするのではなく、市町村の固定資産台帳に基づいて行うように国・東電に強く求めること。
7、避難区域であるか否か、避難をしたか否かなどで賠償に差をつけ、県民に新たな分断を持ち込むことのないように国にもとめること。
8、特定避難勧奨地点が存在する地域には地域全体が税などの減免を受けられるようにすることを国に求めること。
9、緊急時避難準備区域からの避難者に対する賠償を打ち切らないよう国・東電に求めること。
10、賠償金に対して課税をしないよう国にもとめること。
11、災害による義援金や賠償金、給付金などを収入とみなして生活保護を廃止しないこと。
五、除染の促進で、安心・安全な生活環境を
県内の除染は遅々として進まず、7月末の住宅除染完了はわずかに3400戸にとどまっており、県外避難の大きな要因ともなっています。この現状を打開し、除染の促進を図ることが求められており、具体的に以下の事項を要望します。
1、大手ゼネコン依存ではなく、地元業者への直接発注を基本とし、良好な労働環境確保を事業者に指導援助すること。
2、仮置き場決定を促進するためにも、中間貯蔵施設、最終処分場設置を国が責任を持って早期に明らかにするよう求めること。県内避難区域に設置要請がある中間貯蔵施設建設については、関係地域住民との丁寧な話し合いと合意形成を基本とすること。
3、除染作業に係わる国内外のあらゆる技術、知見、経験を集積し効果的効率的除染作業が進められるように、国に役割発揮を求めること。
4、地域の実情に即した除染が実施できるように、国の除染マニュアルを柔軟に適用し、市町村が必要と認めた除染方法に財政支援するよう国に求めること。
5、子どもたちが日常過ごす小・中・高校、幼稚園、保育所、学童保育などの追加線量を年間1ミリシーベルト以下にするよう引き続き除染対策をとること。
六、県民の健康不安に応える健康管理体制、医療、福祉の充実を
放射能汚染の不安は軽減どころかむしろ拡大する傾向にあり、県民の健康対策は、ますます重要な課題となっていることから、以下の事項を要望します。
1、県民健康基本調査の回収率が22.8%に留まっている現状を直視し、全県民からの回収を進めるためにも、アンケート用紙を見直し、簡単に答えられる内容に改善すること。
2、18歳までの医療費無料に加えて、18歳を超えても無料化継続できるよう、「原子力事故による被災した子ども・被災者支援法」の具体化を国に求めること。
3、被災者支援策として実施している、国保、介護保険、後期高齢者医療の一部負担金、保険料の減免制度を10月以降も継続できるように、避難指示区域に限定せず市町村に財政支援を行うこと。県独自の支援は、国保に限らず、介護保険、後期高齢者医療制度についても財政支援すること。
4、原発事故後特に顕著な県内の医師をはじめとした医療従事者不足、福祉施設職員不足解消のため、処遇改善等の抜本的な対策を国に求めるとともに、当面県として独自の対策を講じること。医師不足については、国の責任で医師確保をするよう求めること。
5、医療、福祉施設の再建に向けた積極的な財政支援を県独自に行い、早期の再建を進めること。
6、全国からも立ち遅れた、県立の子ども病院、がんセンターの設置を進めること。裏付けとなるがん対策推進条例を制定すること。
7、気軽に利用できる屋内遊び場や屋内プールの増設、県内外の保養機会の確保など、子どもたちの発達を保障する環境づくりを進めること。
8、希望する県民に線量計を配布し、県民自らが安全な生活を確保できるよう支援すること。
9、避難者を受け入れている病院に対する、診療報酬支払いに関する緩和措置を10月以降も継続するよう国に求めること。
10、県民の生活用水の放射能検査の一部が、東電の柏崎刈羽原発に委託されているが、これを他の検査機関に切り替えること。
七、教育の充実について
震災・原発事故を受けて子どもたちの避難が止まらない厳しい現状にあります。子どもたちが安心して学び成長できる環境をつくるための抜本的な対策を求めます。
1、子どもの人数に対する教職員定数にとらわれず、さらなる少人数学級を推進し、講師を減らし正教員を大幅に増やすこと。
2、子どもたちの心のケア対策を充実強化すること。スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーを大幅に増員し、各学校に常駐配置できるよう、国にも要請すること。
3、放射線教育の充実強化を図ること。
4、ふくしまっ子体験応援事業の拡充、小中高の教室へのエアコン設置など、放射能から子どもたちを守り、健全に成長・発達できる教育環境を整備すること。
八、再生可能エネルギーについて
メガソーラーなどの大規模施設だけではなく、福島県に豊かに存在している自然の資源、太陽光・風力・中小水力・波力・木質バイオマスなどを積極的に活用し、産業、雇用の活性化、地域循環型経済に貢献する取り組みが必要です。
1、地域住民や団体等の取り組みを支援する体制をつくること。
2、県有施設や学校などの公共施設への導入を急ぐこと。
3、個人住宅用太陽光発電の導入を強力に進めるための補助制度の拡充を図ること。
4、電力の買い取り制度を改善し、固定価格での全量買い取り制度の構築を国に求めること。
九、オスプレイ配備と低空飛行訓練に反対すること
世界各地で墜落などの事故を起こしている欠陥軍用機を、世界一危険とされる沖縄の普天間基地に配備するなど、到底認められるものではありません。また米軍は、日本の上空で飛行訓練を行う計画であり、従来の低空飛行訓練ルートを飛ぶとすれば、原発事故で避難している地域の上空や、希少野生動植物種に指定されているイヌワシの営巣地である会津地方の上空も訓練ルートに含まれます。
1、国に対し、オスプレイ配備反対、低空飛行訓練反対の明確な意思表示をすること。
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