はじめに
昨年12月の政府による原発事故の「収束宣言」が、被災者・被害者を苦しめています。東京電力の不遜で傲慢な態度を増長させ、賠償切り捨ての助け舟にもなっています。県として無責任な「収束宣言」の撤回を国に対して強く求めるべきです。
11月12日に発表された7〜9月期の実質国内総生産(GDP)が、3四半期ぶりのマイナス成長に転落しました。輸出や個人消費の落ち込みが大きく、景気がさらに下ぶれすれば、景気後退局面から抜け出せなくなるとの指摘もされています。
臨時国会が召集され、懸案となっていた赤字国債発行法案の審議が始まり、成立の見通しが明らかになってくる中で、年内の衆院の解散・総選挙の可能性が高まっています。野田内閣はTPP参加を表明し、総選挙の争点とする方向が示されていますが、東日本大震災・原発事故で甚大な被害を受けた本県の農林水産業とあらゆる分野に壊滅的な打撃を与えることになるのは必至です。
安心して住み続けられる福島県をとりもどすには、「オール福島」の願いである、除染の促進、全面賠償、原発ゼロの実現を粘り強く国・東電に求めていくことが必要です。
広域自治体として県の役割を発揮し、東日本大震災・原発事故からの復旧・復興をすすめ、県民の安全・安心を確保するために、12月定例県議会に関わって以下の項目について要望します。
一、総合計画の見直しについて
県議会として、総合計画見直し検討委員会において検討がなされ、県に意見を提出したところですが、大震災と原発事故から福島県の復旧、復興を進めるうえで、何よりも被災県民一人ひとりのくらし、住まい、生業の復旧を目指すことを基本に見直しを行う必要があります。
本県の災害関連死が、他の被災県と比較して多いのは、原発事故によって原発立地地域から大多数の住民が避難を余儀なくされたというだけでなく、福島県がこれまで抱えてきた医療・福祉の遅れの弱点が重なったものであり、高齢者や障がい者などの災害弱者が、適切な避難所を確保できない中で命を失ったり、要介護状態に陥る事例が多発する現状があることを直視して、率直な総括を行うべきです。
- 医療・福祉、県民のいのちと暮らしを最優先に、文字通り全国一子育てしやすい福島県、全国一長生きできる福島県を本格的にめざす具体的な取り組みを推進するよう県の方針を総合計画に明記すること。
- 疲弊した地域経済を再建するためにも、復旧・復興に係る莫大な公共事業を地域経済に還元させる、地域循環型の公共事業とすること。
- 新たな産業の育成や研究拠点の整備、再生可能エネルギーの普及についても、県民参加型にすることを基本に据えて総合計画にも明記すること。
二、国へ原発事故「収束宣言」の撤回を
昨年12月の野田首相による「収束宣言」後、政府によるあらゆる施策や賠償などが、県民がおかれた実態や苦しみをなおざりにして「収束」の方向ですすめられようとしています。
予想された地震、津波に対する対策を怠ったために起きた原発事故は、「人災」であることは明らかで、この認識に立つことこそ、事故原因の徹底究明をはじめ、原発事故によって発生したあらゆる問題を被災者の立場で解決する出発点です。
- 政府に対し、根拠のない「事故収束宣言」の撤回を明確に強く求めること。
- 知事自身が、原発事故を「人災」と認めること。
- 廃炉作業へ向けた県独自の監視機関に、県民代表を含めること。
- 事故収束作業に携わる労働者の確保、労働条件の改善と安全対策の強化など、県自身の問題としてとらえ、その監視の仕組みを県がつくること。
- 真に独立し、権限のある原子力規制機関の確立を国に求めること。
三、除染、賠償、健康支援の促進を
安心して住める県土を取り戻す上で、除染の推進、失われた全ての利益を賠償させる、しっかりとした県民健康管理を推進することは不可欠の課題です。
- 本格除染に至っていない現状を一気に打開するために、国の環境再生事務所が現地判断できるよう、国に対してさらに強く責任ある対応を求めること。
- 農地については、水田で面積の半分程度進んだものの、畑地については1割程度と本格除染はこれからという状況です。国に、農地除染に責任を持って取り組む姿勢を明確にさせ、農家の協力の下で除染が推進できるよう急ぎ体制を整備すること。
- 被った損害の全面賠償を実現するために、被災者の立場であらゆる線引きを許
- さないこと。年末を控えて、仮払いを含めた賠償金の支払いを行うよう東電に求めること。
- 放射線量による避難指示区域の新たな見直しが進められていますが、実際には帰還できないことに変わりはないため、住民間の新たな対立を生み出しかねません。汚染と避難の実態に立ち返り、被災者が希望する方法で生活再建できるように支援すること。
- 自主避難者等の賠償について、精神的損害を被っているのは子どもと妊婦のい
- る世帯だけに留まらないことから、精神的損害、経済活動に関わる実害全ての損害の賠償を行うよう東電に求めること。
- 県民健康管理調査を巡る県民の不信が高まっている現状を直視し、県民への丁寧な説明を行うとともに、二次検査が必要な子どもの早期の検査体制を確立すること。
四、被災者支援のいっそうの拡充を
- 大震災から1年8ケ月がすぎて次々と支援対策が打ち切られています。国に被災者支援の継続を求めるとともに、県としても支援を縮小させることなく継続すること。
- 「住宅は人権」の立場で、一刻も早い仮設住宅解消のための復興公営住宅の建設を促進すること。
- 県内自主避難者支援については、子ども・妊婦に限る、市町村を超えないなどの「線引き」をせず、遡及して該当させること。
- 県内・県外の新たな避難者への支援受付中止を撤回すること。
五、県民のくらしと生業の再建を復興の土台に
- あらゆる分野に多大な影響を及ぼし、本県の復興の足かせになるTPP交渉参加は、明確に反対すること。
- 復興をめざす県民と被災地の地域経済に冷水を浴びせる消費税増税の撤回を求めるとともに、県民の生命と安全を脅かすオスプレイの飛行訓練を直ちに中止するよう国に強く求めること。
- 中小企業者へのグループ補助の継続を国に強く求めること。県としても予算 枠や対象を大幅に拡充し、国へ支援を求めること。
- 中小企業者に対し、グループ補助金等の復興支援事業の丁寧な説明と周知徹 底を図ること。
- 雇用対策は、緊急雇用創出にとどまらず、正規雇用を大幅に増やすよう企業に求めること。
- 仮設住宅や民間借り上げで生活している避難者に対し、仕事おこしを支援し 雇用につなげること。県自らも、正規職員を増やすこと。
- 公契約条例を制定し、最低賃金は時給1000円以上とすること。
- 大企業の進出、効率優先の産業構造などを持ち込ませず、地場企業の復旧を 基本にし、新たな産業や地域づくりを住民参加で進められるよう積極的に応援 すること。
- 米の全袋検査体制を拡充し、年内に出荷できるようにすること。
六、「地域主権改革」について
「地域改革推進一括法」(第一次2011年4月、第二次同年8月)は、「構造改革」路線と結びついた自公政権下の地方分権改革推進委員会の勧告をそのまま推進するもので、国の責任で国民生活の最低保障(ナショナルミニマム)を各分野で放棄し、国民生活を支える行政サービスの後退につながる重大な内容をもったまま成立したものです。
しかも、東日本大震災と原発事故を踏まえ、国と地方が力をあわせて、震災・事故に対処し、困難を乗り越える立場でそれまでの検討を洗い直すことさえしませんでした。
国と地方との関係は、国からの地方に対する中央集権的な統制・監督、関与のしくみをなくし、地方自治体が「住民の福祉の増進」という責務を果たし、地方への財源、人的体制の保障が十分措置されるものでなければなりません。
- 広域的な政策の観点に立って、責任をもつべき事項を権限移譲しないこと。
- 移譲によって、事業者などに対する規制機能が果たせなくなる権限移譲はしないこと。
- 職員の専門性の保全と継承、人的な配置と育成が保障されなくなる権限移譲はしないこと。
- 国民生活を守るために必要な基準などの撤廃、行政機能の低下・悪化につながる義務付け、枠付けの見直しはしないこと。
七、県職員給与の見直しについて
民主党政権が強行した国家公務員の賃金の平均7・8%引き下げは、労働基本権が制限されているもとでの代償措置としての人事院勧告をも無視した憲法違反の賃下げです。公務員と民間との賃下げ競争を強いる政治の転換こそ求められています。
- 県職員給与の見直しにあたっては、本県職員の置かれている厳しい現状を考慮し、本県独自の改善につながる改定とすること。
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