9月定例議会に関する要望書
はじめに
県の公共事業の下請けに入り受注してきた水谷建設の脱税問題を発端に、“福島疑惑”として東京地検の捜査が進められています。その過程では東急建設の東北支店長が自殺するという犠牲者まで出ています。
今月4日には、競争入札妨害(談合)容疑で、佐藤工業社員と知事支援者を名乗る郡山市の設備会社社長が逮捕されたうえ、県の元部長が関与していた、とも指摘されています。
こうした事態は、佐藤県政2期目半ばの1994年度から毎年1千億円規模で借金を増やして大規模事業を進め、空港滑走路の作り替え、トラハイ、空港公園、木戸ダム、小名浜人工島造りに次つぎと着手し、2001年の未来博まで続けた県政運営が原因といえます。これまで再三指摘し、求めてきた入札制度の改善はただちにとりくむべき課題です。
今回の疑惑事件で県職員や受注企業も東京地検から事情聴取を受けています。
知事の実弟が社長をつとめる郡山三東スーツの郡山工場跡地売却をめぐる水谷建設との不透明なカネの流れはいまだ疑問のままです。
知事は、三東スーツの筆頭株主という立場からも、県の公共事業の発注者という立場からも、県民の疑問、疑惑の解明に責任があることは明白です。
いま県民の暮らしは、小泉「構造改革」のもと、庶民大増税と連動する国保税、介護保険料など雪だるま式の負担増で深刻な事態が広がっています。
こうして県内でも確実に社会的な格差が広がっており、格差是正をはじめ県民の暮らし応援の県の役割はますます大きくなっています。
こうした点から9月定例県議会にあたっては、県民の疑問に知事自ら応えることを求めるとともに、県民の暮らしを守り、市町村の個性ある地域づくりがすすむよう、市町村支援を強めることを柱に、以下の項目について要望するものです。
I 水谷建設脱税事件ならびに県発注公共事業をめぐる談合事件にかかわる知事の責任について
県発注の公共事業をめぐる談合疑惑では、知事の以下の二つの立場からすれば、ひとごとでは済まない問題であり、知事の政治的・道義的責任は免れません。
(1)知事は、三東スーツの筆頭株主という責任ある立場にある以上、三東スーツと水谷建設とのかかわり、ならびに不明朗な資金の流れについて自ら解明し、県民に説明すること。
(2)県の元部長や県内企業、知事周辺の支援者がかかわって入札参加の調整、つまり談合が行われている疑惑が深まった。知事は、県の公共事業の発注者としてこの事件について自ら全容を解明し、県民に説明すること。
II 医療・福祉の充実のために広域自治体として役割を発揮すること。
1) 障がい者福祉について
10月から本格施行となる「障害者自立支援法」による負担増を軽減し、地域で生活できるための受け皿の整備が急がれます。
(1)障がい者が地域で日常生活をおくるためのサービス基盤について、「依然としてサービスによっては空白地域が残されているなど、全国的な水準からは遅れてい」る(04年9月、第二次福島県障がい者計画)のが実態であり、他県と比べても、財政面を含めて基盤整備について格段の努力が必要なことを認識すること。
(2)県として「サービス水準は後退させない」立場に明確に立ち、利用者負担の県独自の実効的な軽減策、事業所に対する必要な支援策を講ずること
(3)市町村が行なう「地域生活支援事業」については、無料または応能負担による低廉な利用料を設定できるよう県が支援すること。
(4)障がい児や障がい者の県の入所施設の民間移譲をやめ、老朽化している施設整備を行うとともに、利用者の負担軽減をすること。
(5)国に対して、障がい者の立場に立った自立支援法の抜本的見直しと、「応益負担」の撤回を求めること。
2) 介護保険について
改悪介護保険法が今年4月から全面実施となって、介護ベッドの取り上げ、保険料の値上げ、いわゆる「ケアマネ難民」などの問題が噴出していますが、高齢者の実態に即したサービスを確保するためには県の支援が欠かせません。県としての役割を発揮することを求めます。
(1)「利用者や事業者、市町村等介護の現場の声を聞きながら制度運営上の問題把握に努め」る(6月議会での保健福祉部長答弁)県の立場を堅持し、改定介護保険全面施行後の利用者、事業者の実情をつぶさに把握すること。
(2)「軽度者」から、機械的・一律に用具の回収をしないように、とする厚労省事務連絡(8月14日)を県として市町村に徹底すること。
(3)市町村の努力による保険料減免について、国によるいわゆる「三原則」((ア)全額免除、(イ)一般財源繰り入れ、(ウ)収入審査だけの減免を「不適当」とする)は法的に市町村が従う義務がないことを県としてはっきりさせ、市町村が保険料減免策を充実できるよう支援すること。
(4)地域の高齢者のあらゆる相談に応える拠点として、市町村が運営に責任をもつ地域包括支援センターが、介護予防ケアプランの作成だけで忙殺されることがないよう、県は市町村に対し、最大限の支援をすること。
(5)介護現場を支える介護労働者・事業者が、高齢者の心に寄り添った仕事と事業が継続してできるよう、県として具体的な支援策を講じること。
3) 病院勤務医不足解消のための県としてのグランドデザインを
県民が安心して暮らせる県土づくりのためには、県民が安心できる医療を県が中長期展望をもって示すことが必要です。
(1)県立医科大学の入学定員増実現へ向けた努力や、4月に医師(助手)20人を配置しての派遣の拡充は評価できるものであり、引き続き努力すること。
(2)何よりも県が、県民の命・健康を守る医療に責任をもつ姿勢を明確にし、病院勤務医が自発的に県内に定着して働き続ける環境整備のためになにが必要か、関係者の声を十分に聞くこと。
(3)医師のライフステージにあわせ、医師が生涯を通じて県内で医療活動を続けられる医療環境整備のグランドデザインを県が示すこと。
4) 後期高齢者医療制度について
(1)後期高齢者医療広域連合は保険料や減免措置を決める大事な機関となるが、県自身が広域連合の一員として加わり、なおかつ、後期高齢者の意見を十分反映させるしくみとすること。
5) 児童相談所体制の充実
泉崎村での幼児虐待死事件を重く受け止め、再発防止のためには児童相談体制の抜本的見直しが必要です。
(1)現場の実情と声を十分反映させ、児童相談所の果たす役割を再確認すること。
(2)児童相談所の正規の専門職員を増やすこと。
(3)郡山相談センターを児童相談所として独立させること。
(4)人口50万人に1か所の配置基準に照らし、県内最低5か所、将来的には7つの生活圏に最低1か所の児童相談所設置を計画的にすすめること。
(5)児童虐待防止のための研修制度を充実させること。
6) 実効ある子育て支援のために
妊娠・出産から子どものさまざまな成長過程において県が支援するしくみを確立し、経済的支援を軸に実効ある子育て環境を整えることを求めます。
(1)「職業生活と家庭生活の調和」(8月30日、政調会・保健福祉部長説明)と自己責任をにおわせるようなあいまいな施策でなく、県として「仕事と家庭の両立を支援する」立場を明確にすること。
(2)子育て世代の職場環境整備を支援し、正社員の雇用を県として促進すること。
(3)「仕事と家庭の両立支援」のために、保育所や学童保育を増設し、待機児童解消と利用者負担の軽減のために県が支援すること。
(4)県として妊娠・出産にかかる費用の軽減策をとること。
(5)子どもの医療費の軽減のために、義務教育修了まで無料化年齢を拡充すること。
(6)「認定子ども園」の施設設備・職員配置・職員の資格などは、幼稚園と保育園の経営者・園長、職員、保護者をはじめとした関係者との十分な議論と検討をふまえ、現行の認可幼稚園・認可保育園の基準を低めることなく、高いほうの基準を義務づけること。
(7)生活困窮世帯が急増していることから、就学援助制度や、高校・大学の学費免除制度を活用させるようにし、免除枠は生活保護世帯の1.5倍まで拡大すること。さらに、県の奨学金制度を充実すること。
III 教育について
(1)先の国会で継続審議となった教育基本法全面改定案は、「国を愛する態度」などを「徳目」として強制し、内心の自由を侵害するばかりか、教育行政における地方の裁量を縮減・消滅させる構造すらもっている。
この改定案について「国民的な議論が十分につくされることを期待」という立場ではなく、県として明確に反対の意思を示すこと。
(2)学校間の序列化をいっそうすすめ、地域に開かれた教育とは矛盾する県立高校普通科通学区域の県内一円化はしないこと。
IV 農業振興に関する県独自策について
品目横断対策への加入申請受付が1日から始まり、農民は重い表情でこの施策を見つめている、と聞きます。多様な農産品をつくり、地産地消を柱に自給率の向上を図るため、力をあわせ、農業と集落を守ろうとする農民すべてが希望をもって働き続けられる積極的支援を求めます。
(1)「品目横断的経営安定対策」では、地域の生産を守ることを最優先に、小規模でもがんばっている農家や集落が対象となるよう県としての弾力的対応をとること。
(2)地域の条件をふまえ、生産の拡大、加工、販路の確保など、農家と集落の生活と生産、経済基盤を県として積極的・主体的に支援すること。
(3)農家に対する価格・所得保障を充実させること。
V 原発行政について
老朽原発酷使策が国によって強引に進められるもと、原子力政策を安全優先の立場で見直させることは住民の安心・安全にとってきっきんの課題です。
(1)復水から補給水系へ放射性物質が流れ込んだり、計器の誤設定が相次いで明らかになり、なかには30年間も放置されていたり、再循環系配管のひびが見逃されたり、制御棒のひびが次つぎと見つかったり、老朽原発酷使による事故があとを断たず、およそ「維持基準」の議論以前の問題であり、「維持基準」導入には同意しないこと。
(2)「プルサーマル」は、モックス燃料使用による大量の高レベル放射性元素の生成や大量の放射線の放出によって現状の老朽原発の危険を増幅させること、原子炉事故による放射能放出の影響は計り知れないこと、そもそも実証試験なしにいきなり商業用老朽原発で実施しようとしていること、使用済みモックス燃料の処分方法すら決まっていないことなど、モックス燃料を使う原子炉の安全性への疑問、核燃料サイクルのうえでの技術的困難に対する疑問になんら応えない計画であることを県としても明らかにし、その導入を認めない姿勢を堅持すること。
(3)事業者まかせになっている老朽原発の「廃炉」について、県が提起すること。
VI 防災施策の促進について
(1)学校施設、とりわけ公立小中学校の耐震改修について、市町村まかせにせず、県自身の問題として計画的に早急に進めること。
(2)主要地方道いわき石川線の土砂くずれの教訓にたち、局地的な集中豪雨などによる土砂災害・道路災害の危険個所を総点検し、優先的に整備を図ること。トラハイを優先させる必要はない。
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